あやの里だより №38 豆腐屋さんと自家製厚揚げの巻

 購読している新聞に、自家製厚揚げの作り方が載っていた。それを読んで、意欲をもやした! 80歳でも、あたらしいことに挑戦なのだ(#^.^#)! 

 

 実は、18年前、隣部落の実家「あやの里」(これは、わたしが母親の名から、かってに名づけたもの)に引っ越したばかりの頃、その家で豆腐屋をするべえ、と空想したことがあった。少しは本気だった。部落の常会の飲み会でしゃべったことがあるから。そのとき、部落の人から「買いに行くよ」と言ってもらえたのを覚えている。

いろいろ豆腐屋の構想!を練ったが、なんだか市民活動で忙しくなって、豆腐屋になるに至らなかった。今でもちょっと残念な思いがある。

というか、わたしは、妄想にかられやすい質(たち)である。豆腐屋をしよう、と思うと、たちまち豆腐屋のイメージを沸かせて、家の前の納屋を改造しよう、あそこで豆を炊いてとか、間取りを考えたりするのだ。妄想だけで終わることが多い…。

 

 そのころ、近くの村落で、一人で豆腐屋をやっているおばさんがいると聞いて、娘と一緒に買いにいったことがある。ふつうの民家の、もと蔵(くら)だったような感じの家の土間で、おばさんは豆腐を作っていた。

つぶした大豆を大きな布袋にいれておいて、てこの原理で、長い柄をあげると、でっかい石が豆腐袋の上に落ちてきて、袋から豆乳がしたたり落ちる仕組みだった。自家製の大豆か、またはその部落の大豆かで作った豆腐で、なにしろ「おいしい」と評判だった。でも、それからしばらくして、そのおばさんは豆腐屋をやめたようだった。

 

松本市の中心部にもお豆腐屋さんはあった。用があって知人を訪ねた折、知人の奥さんがボールを持って買いに行くのに、ついていったことがある。おしゃべりしながら豆腐屋さんに行ったときの光景をありありと思いだす。10年ほども前のことになろうか。なんだかたのしかったなあ。

そのころすでに、そのお豆腐屋さんは週に2,3日、それも予約の人だけに売る、という店になっていた。その豆腐屋さんもとっくに店じまいし、一緒に豆腐を買いに行った奥さんも、そのご主人も亡くなってしまった。

 

 その昔、わたしが子どもの頃の、大阪の下町の商店街は、とても賑やかで、いろんなお店があったが、その中に、もちろん豆腐屋さんもあった。

 道草を食うのが好きな私は、学校が終わると、ちょっと遠回りになったが、商店街を通って家に帰るのが常だった。(忘れ物をしたときは、最短距離の、国道沿いの歩道を走って、取りに帰る。)

豆腐屋さんの店先の、大きな四角い金属の桶には、水の中に豆腐が何丁もゆらゆら浮かんでいる。おばちゃんは、水の中に手をつっこんで、壊れないように手のひらにお豆腐を載せて、そっと鍋にいれてくれるのだ。冬でも冷たい水を使うおばちゃんの手は真っ赤だった。店の奥の土間では、大きな天ぷら鍋で、お揚げさんをおばちゃんが揚げているのを見ることもあった。

思い起こせば、プラスティックなどと無縁のいい時代だった。

 

そもそも、スーパーができてから、世の中、変わっていった気がする。スーパーができ始めたころ、スーパーで買い物をすると、まるで自分が買い物マシーンになったような気がしたものだ。スーパーがお豆腐屋さんを駆逐し、市場も商店街もさびれさせた。つまらない世の中になってしまったものだ。

 

さて、あやの里のある部落の常会では、どこの豆腐がおいしいとか、どこのおやきがいちばんうまいとか、うどんをつくるなら、あそこの粉がいい、とかいう食べものの話がよく出た。私のお気に入りの豆腐は、生坂(いくさか)村(むら)の「かあちゃん豆腐」。母ちゃんたちががんばって、地元の大豆で作っている豆腐だ。(生坂村は、2005年の、政府主導の、半強制的な市町村合併のおり、自立を選んだ村である。)

 もうひとつお気に入りのお豆腐屋さんは松本市内のT豆腐店。豆腐コンクールでよく優秀賞をとる店で、友人がその豆腐屋で働いていることもあって、松本に行くときは、できるだけそこの豆腐を買って帰るようにしている。豆腐も揚げも国産大豆。国産大豆の揚げは、めったに売っていないので、揚げはこの店で大目に買うことが多かった。揚げは冷凍できる。

 

こういう思い出とともに、新聞のお料理面は、ただちにわたしに厚揚げを自分でつくる、という実践に導いた!

でも、揚げづくりって、拍子抜けするぐらい、かんたんだった。家で揚げると、国産の、昔のようにちゃんとしぼった菜種油を使うので、余計においしいわけだ。二回目からは、超うまくいった。

豆腐は、布巾などでよく水を拭いておくと油が跳ねないものだということを知った。新聞では、クッキングペーパーで豆腐を包んで水を切る、なんてことを書いてあったが、使い捨てを敵視しているバーバのことである。貴重な紙を、水を切るためだけに使うなどということは、恐ろしくてできない。

 まな板に豆腐をおいて、まな板をすこし斜めにしておいたら、豆腐の水が流れ出る。しばらくして、布巾で豆腐をしっかり拭けば何事もない。布巾は大して汚れない。ちょっと水で手洗いすればいいだけである。

(ついだが、紙タオルも、恐ろしい。ハンカチでふけばいいじゃないか。紙コップも、一杯の水のために存在し、捨てられる。紙使用大国の日本は、世界の森林の破壊に一役買っている。)

 

まあ、それはともかく、この自家製厚揚げと切り干し大根をお醤油で煮た。ベランダで長い間干しておいた切り干し大根をはじめて使ったのだ。とてもおいしく、またうっとり!してしまった。みなさまも、挑戦してくださいませ。