コロナ後の世界 3 「人類は生きのびられる?」1

 山の中の部落に越してからできた友達のMさんは、わたしより3歳上の83歳。気持ちがまっすぐで、しかもおおらかな、素敵な友達です。

 先ごろ、Mさん宅でお茶をごちそうになっているとき、Mさんがふっと言いました。「100年なんて、短いわね。」

あれ、と思いました。実は私も最近、本当にそう思うようになっていたのです。

 

 若い頃は、100年なんて、とんでもなく長いと感じていましたが、最近は、『源氏物語』を書いた1000年前の紫式部も、『徒然草』を書いた650年くらい前の吉田兼好も、昔の人に思えなくなっていました。ともだち?みたいにね。

 読んでみると、今のわたしたちと考えることや感じ方が、おんなじなんですね。その上、なるほど、そうか、と教えられることも多い。だからおもしろい。

 

さて、1000年は短いと感じるようになってきたものの、でも、人類の歴史は、というと、とてつもなく長い。

類人猿の祖先から、ヒト(人類)がチンパンジーと枝分かれしたのが700万年前。その後20種類もの人類が、生まれては絶滅したそうです。

そして、今の私たちの祖先(現生人類・ホモ・サピエンス)がアフリカで生まれたのが20万年前ごろ。ホモ・サピエンスの一部がアフリカから出て、世界のあちこちに広がりだしたのが6万年前くらいらしい。(人類学も、新しい化石や遺跡の発見などで、それまでの定説がくつがえされることも多いようです。)

 

アフリカを出たホモ・サピエンスは、5万5千年前くらいに、中東で、先住人類のネアンタール人と出会った。その後北上したホモ・サピエンスは、ヨーロッパで、何万年かの間、ネアンタール人と共存して、混血もした。

わたしたちの遺伝子の2%以上が、ネアンタール人由来のものだといいます。

そう思うと、なんだかたのしいですね。

ずうっとさかのぼっていくと、今のわたしたち、一人ひとりの存在がすべて、はるか遠い生命の歴史(38億年)を背負っていることがわかってきて…。

 

ネアンタール人の歴史は30万年もあるそうですがが、とうとう滅びたのが3万年くらい前。なぜ彼らは滅びたのでしょう?

ネアンタール人の脳はホモ・サピエンスより大きく、筋骨隆々としていて体格も立派だった。最近の研究で、彼らはことばも話せたと考えられるようになったそうです。

ところが、そのころ地球は寒冷化して、ヨーロッパは時にマイナス30度にもなる極寒の地になってしまった。ネアンタール人は、その厳しい環境を乗り越えることができなかった、ということらしいのです。

では、わたしたちの祖先のホモ・サピエンスがなぜ生き延びることができたか。

ネアンデルタール人は、血縁関係中心の、多くても20人くらいの集団で暮らしていた。ところが、ホモ・サピエンスは、多い時には150人くらいの大きな集団をつくり、情報や知恵を共有することができた。

たとえば、動物の骨で針をつくって獣の毛皮を縫い合わせて暖かい外套をつくったり、道具の改良を重ねることもできた。そして、仲間と協力して、集団の力でマンモスなどの大型の動物も殺すことができるようになった。

 

つまり、ホモ・サピエンスが生き延びられたのは、脳を、そのように協力的・社会的な脳に進化させたから、ということのようです。

実験では、乳幼児でも協力することを好む性質がそなわっており、困っている人がいたら助けようとするそうなのです。

わたしたちホモ・サピエンスは、そういう社会的な脳を持っているのですね。

でも、ホモ・サピエンスは、ネアンデルタール人より長く生き延びられるでしょうか?

 

多くの科学者や哲学者が、コロナ後の世界について、提言しています。

イタリアのパオロ・ジョルダーノという、物理学者で文学者の『コロナ時代の僕ら』という本を、図書館で借りることができました。

その一節。

 

「COVID-19(新型コロナのこと)とともに起きているようなことは、今後もますます頻繁に発生するだろう。なぜなら新型ウイルスの流行はひとつの症状にすぎず、本当の感染は地球全体の生態系のレベルで起きているからだ。」

 

感染症の流行は考えてみることを僕らに勧めている。隔離の時間はそのよい機会だ。何を考えろって? 僕たちが属しているのが人類という共同体だけではないことについて、そして自分たちが、ひとつの壊れやすくも見事な生態系における、もっとも侵略的な種であることについて、だ。」

 

考えてみると、ホモ・サピエンスは、誕生以来、集団と技術の革新によってふえつづけてきましたが、一方で、マンモス以下、多くの生き物を絶滅させてきました。さらに、今や技術革新は、その限界に達している。技術が、人類にも敵対する時代に入ってきた、というのが、わたしの感覚です。

コロナ禍後、わたしたちは、これまでの社会のありようを変えることができるのでしょうか? 変えないと、ホモ・サピエンスは滅びる、そう思えてならないのです。

 

※参考:『暴力はどこからきたか 人間性の起源を探る』(山極寿一著 NHK出版)

『世界は美しくて不思議に満ちている』『物申す人類学』(長谷川真理子著 青土社

NHKスペシャル『人類誕生』など