「あほとバカ」の巻 あやの里だより №17 

 

 先日、娘が、「彼氏がバカて、言うねん。『バカ』はやめて。アホやったらええけど、て言うてん」「ねえ、アホやったら傷つかへんけど、バカは嫌やんねえ。」と言う。

「ふむ、ふむ」と共感してやった。すると、ついでに娘が言う。

「お母さん、『あんたは、あほやなあ、ほんまにあほやなあ』て言われたことがあったやろ」と言う。

「え、なんやったかいなあ。」と言うと、「ほら、もったいない、言うて、本箱ひろてきて、それを運ぶときに、メガネ落として割ってしもたやろ」と言われて、思いだした。

 

大阪の団地時代、大型ごみの日に、立派な本箱が捨ててあった。「なんと、もったいない」と思って、頂こうと思ったのはいいが、とても重い本箱で、誰かに手伝ってもらって、やっと三階まで運んだはいいが、汗をかいて、メガネを落として割ってしまったのだ。

そのころ、メガネは高かった。ただの本箱は、返って高くついたわけである。それを小耳に挟んだIさんが、わたしに、「ほんまにあほやなあ」と言ったのだ。

わたしは、なるほど、あほやったわい、と思って、別に腹も立てなかった。こういうアホな出来事は、山ほどあるのである。

 

そして、娘に、「あんな、姉ちゃんにも、三回、アホやって言われたことがある」と教えてやった。長野に越してきてからも、ちょくちょく大阪に帰っていたが、実は、こういう小旅行のために、大阪に帰った時に、姉が一緒に店についてきてくれて、車のついたバッグ(キャリヤー)を買ったのだ。

ところが、その次に大阪に行ったとき、そのキャリヤーを買ってあることをすっかり忘れて、ふつうの肩掛けバッグで大阪に行ったのである。

姉は怒って「あほやなあ、あほやなあ、あんたはほんまにあほやなあ」と、感に堪えたように、力を込めて、三回「あほ」と言ったのであった。

わたしは、「三回もあほて、言わんでいいやろ」と弱々しく反論したのであったが、それを思いだしたのである。

 

この話を聞いた娘は、「ほんまにあほやなあ」と言う。

しかし、娘も、とてもしっかり者のようにみえて、実は、忘れ物とか、うっかりとかが多いようすで、えらそうなことは言えないはずである。(だれに似たんやろ。)

娘とまだいっしょに住んでいたころ、「行ってきます」と言って仕事に出かけたかとおもうと、「わすれものや」と言ってすぐ帰ってくる。数分後、また「わすれもの」と言って帰ってくる。かように、二度、三度、忘れ物を取りに帰る、というようなことが、ままあった。

 

ところで、昔は、わたしが探し物をしていると、つれは親切に「ほら、前にどこに行ったか、順に思いだしてみろ」とか言っていたが、このごろは自分がとても忘れっぽくなって、しょっちゅう探し物をしているので、わたしに親切にああしろ、と言わなくなった。

そして、自分が忘れっぽくなったことを、すごく嘆くのである

 

そこで、私は慰めてやる。「そんなことぐらいで落ち込んでたら、わたしなんかどうなるのよ!わたしなんか、すごいんやから。」

忘れ物に関しては、年季が入っている。いちいち忘れ物で落ちこんでいたら、身が持たない。たしかに今でも、ものすごい忘れ物をして、少々落ち込むこともないではないが、そんな失敗も、すぐ忘れてしまう。

「死ななきゃ治らない癖」!

 

わたしの周りの友人たちは、失敗しても「あほ」とか「バカ」とか、絶対に言わないやさしい人ばかり。ありがたいことですね!

 

大阪人は、「あほなことした」とか、しょっちゅう使う言葉なので、とくに、「あほ」と言われても傷つかないのですが、関東の人は、「あほ」といわれるほうが、「バカ」といわれるより、傷つくとか。そうなんでしょうか。