スペイン風邪の死者は、第一次大戦の戦死者より多かった!

 

 5月7日のブログに、スペイン風邪のことを少し書きました。

そうしたら、5月12日に、BS1スペシャル「ウイルスVS人類3 スペイン風邪 100年前の教訓」が放映されたのです。

出演者は、私がお気に入りの若い歴史家磯田道史さんと、防衛大の川名明彦さん。

 

全世界に広がったスペイン風邪の死者は、4000万人とも、一億人とも言われるそうです。なんと、第一次大戦の戦死者(1000万人とも1600万人とも言われています。)をはるかに上回るのですね。当時の世界人口は、18億人くらいのようですから、これはすさまじい数ですね。

 

この未曽有の疫病の世界的流行のため、戦争終結が早まったとも言われます。戦争どころじゃなかった、ということでしょう。なのに、このスペイン風邪については、歴史の上でも、あまり大きく扱われず、忘れ去られていた。なぜなのでしょう。

 

そもそも、アメリカで出現したのに、「スペイン風邪」とは、これ如何に?

 

当時スペインは中立国で、感染源のアメリカ(ボストン)をはじめ、紛争当事者国が情報を隠蔽するなかで、ひとり大きく報道したためのようです。いやはや!

 

第一次大戦終結後、1919年にパリ講和会議が、戦勝国の米英仏伊の首脳によって開かれたのですが、ドイツに対して過酷な賠償金を強硬に要求するフランスのクレマンソーに対して、アメリカの大統領、ウッドロウ・ウイルソンは、おだやかな和平を主張していた。そもそも、ウイルソンって、国際連盟を提唱して、ノーベル平和賞を受賞した人でした。

 

ところが、このウイルソンが、この会議中にスペイン風邪にかかってしまって、高熱でもうろうとなったんですって。そして入院している間に、会議の流れが大きく変わって、ドイツへの懲罰的なヴェルサイユ条約の方向が決まってしまった。というのです。

こうして、過酷な賠償をドイツに課すという、フランスの強硬策が通った結果、その後の歴史が示す通り、巨額の賠償のために、困難にあえいだドイツに、ヒトラーが出現する素地をつくってしまった、というのです。

 

結局、ウイルスが世界史を変えたのですね。それぐらいの力をウイルスはもっている、ということになります。

 

インターネットで、ちょっと調べてみると、スペイン風邪で、歴史に残る有名人がたくさん亡くなったそうです。詩人のギヨーム・アポリネール(フランス)、社会学者のマックス・ウエーバー(ドイツ)、画家のグスタフ・クリムトオーストリア)など…。知りませんでしたね。

 

日本でも、スペイン風邪で亡くなった人は、45万人にのぼるそうで、その数年後の1923年(大正12年)におきた関東大震災で亡くなった10万人より多かったわけです。だのに、関東大震災のことは、歴史的大事件として大きく扱われてきたのに、スペイン風邪については、水面下におさえられてきたのですね。

 

 たとえば、島村抱月しまむらほうげつ)が、スペイン風邪で亡くなったことも、知りませんでした。島村抱月って、新劇(大衆演劇とは違う)運動の旗手で、松井須磨子と一緒に劇団をたちあげて、トルストイの『復活』を上演した、その中で歌われた「カチューシャの唄」が大評判になった、そういう、歴史に残る人です。

この歌の歌詞も旋律も、わたしでも知っていました。それぐらい有名だったんですね。「カチューシャかわいや わかれのつらさ せめて淡雪 とけぬ間に 神に願いを(ララ)かけましょうか」っていうんです。(若い人は知らないか…。わたしも半分化石?)

 

さて、今後の世界のありかたについて、磯田道史さんは、100年に一回では済まない、未来に次のパンデミックが待っている、という前提で考えておかないといけない、と強調。

 

川名明彦さんも、終息しても、忘れないようにして、準備しておく必要がある。国家のあり方も、変えなければならない、と話していられました。

 

 ウイルスは変異するんですね。スペイン風邪は、1918年の第一波、第二波、そして、1919年の第三波へと繰り返したそうですが、そのつど、致死率があがっていったとのこと。それがこわいですね。 

 

スペイン風邪の教訓の第一は、人類が生き延びるために、これからも、パンデミックの再来に備える必要がある、ということ。

 

もう一つの教訓は、情報の隠蔽がコロナ禍を世界に広げた、ということ。いかに情報の公開と共有が大事か、ということですね。

 

さらに、情報が隠蔽されたのは、世界中が敵味方にわかれて戦争していた、ためだった、ということがあります。 

 

今、アメリカは、大統領選を有利に導くために、コロナの感染源の中国を標的にして、政府への批判をかわす、という作戦をとっているようすです。中国非難のための宣伝に莫大なお金をつぎこんでいるとのこと。汚いやり方ですね。

川名さんは、中国からの情報伝達は、遅くなかった、1月段階で、もう情報は伝えられていた、と述べていました。

 

世界はけんかしている場合じゃない! 協力・協調して、パンデミックに備えなくちゃいけないんです。これも、教訓の一つですね。

 

今後の世界はどうあるべきか、さらに考えていきたいと思います。